【読んだ本】大栗博司/重力とは何か?

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何かのきっかけで大栗先生のTwitterをみて、紹介されていたこの本を買って読んでみました。一般向けに重力理論や量子力学、一般相対論を解説しています。

失礼を承知で感想を書くと、これまで読んだ解説書とは異なる視点からの説明を(勝手に)期待していたものの、中身は他の解説本と大差ありません。それどころか、残念なことに、他の本よりもわかりづらい点も多いです。

まず、個々の説明で用いられる「例え」がとてもわかりづらいです。既に存在する幾多の解説本と重複しないような説明を試みられたのかもしれませんが、例の場面設定や具体的な数字が突飛で、逆にわかりづらい説明になっているように感じました(たとえば、光電効果(物質に光を照射したときに電子が飛び出す現象)の説明のところで、飛び出す光電子を「留置場に拘束されている容疑者」にたとえ、容疑者が100円(光)をもらうと釈放される、でも留置場に投げ入れられたお金(光)は貯金はできない、1円玉を100枚投げ入れても釈放されない。1000円投げ入れると、100円で釈放されたあと容疑者の手元に900円残るので、タクシーで家に帰れる(物質から飛び出したあと、運動エネルギーをかせぐことができる)と説明します。なぜ容疑者にお金が投げ入れられるのかよくわかりません。たとえ話ではなく、物質の中の電子が束縛準位にいること、光からエネルギーを得て自由電子になるときに束縛エネルギー分を差し引いたエネルギーを運動エネルギーとして持ち去れることと、素直にそのまま説明したほうがわかりやすくないでしょうか。

文章の流れにも難点があります。特定の問題(解決済みの過去の困難や、解決されていない問題)を紹介する方法もなんだか冗長で読みづらいです。各セクションで取り上げる問題そのものの解説の前に、たとえ話や仮定の話が何パラグラフが差し挟まれているので、主題がぼけてしまっています。また、「真空が壊れる」「真空が不安定」「図38 弦のこのような振動に対応する粒子は、質量を持たない。」等、肝心なところは本質が全く説明されておらず、消化不良な後味を残します。

また「もし光より速い粒子があったらどうなるか」のセクションで触れられている、「超高速ニュートリノ」の報告については、「測定の間違い」だったということが明確に述べられておらず、implicitに「そういう粒子はあり得ない」という説明がなされているだけで、ミスリーディングなように感じられました(説明の冒頭で「これは後に測定の間違いだとわかっています。もし超高速の粒子があったら、、、」と書いてあればより話がスムーズではないでしょうか)。ところどころに、このような曖昧な記述が散見されます。

さらに(この点は量子力学の説明方法に対する個人的な趣味の問題が関連しますが)、「シュレーディンガーの猫」の説明に2ページ割かれています。個人的には、この思考実験が量子力学の本質をわかりやすく説明しているとは思えません。無数の解説本で採用される説明ですが、general publicの中に、この説明(たとえ)で量子力学がわかったという人はいるのでしょうか?もう21世紀なので、そろそろもっとまともな説明(たとえ)を考える時期ではないかと思います。

文章力が低いぼくがダラダラと批判的なコメント書いても世界にとって生産的ではないのですが、期待していた分のがっかりが大きかったので、正直な感想を書きました。偉大な先生に対する非礼をお詫びします。大栗先生の他の本も読んで勉強します。

20140716読了

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