【読んだ本】長與善郎/復刻版 少年滿洲讀本

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昭和13年(1938年)、満州国の建国(1932年)から6年目に発行された、子供向けの満州紹介紀行文。お父さん(松島公造)と息子2人(一郎くん・二郎君)が、夏休みに満州で働く親戚を訪ね、鉄道や飛行機を乗り継いで各地をめぐり、満州の地理や人々ん生活を学ぶ旅を描いています。

学生時代から戦前・戦中の日本と近隣諸国の関わりに興味があり、ほんの一部では有りますが満州のいくつかの街にも訪れたことがあります(2009年に旅行した時の写真)。本屋でこの本を見つけて、当時の日本人にとって、満州はどのような存在であったか、満州に済む人々の暮らしはどのように紹介されていたかが気になって、読んでみました。旅行前のお勉強の時間に、満州の広大さと様々な地理的要素があることについて解説していたお父さんは

何分広いもんだから、多くの満州旅行者のように大連からせいぜい哈爾浜くらいまでの古い満鉄沿線一本を縦に素通りした位では、変化に飛んだ満州の風景をいいの悪いだのと語る資格はないわけだ。

と述べていますが、ぼくが旅行したのもまさしくその通りのルートで、中国東北地方のほんの一部しか見ていません。この本では満州全域を訪れ、各地の気候や特産品(農産物、石炭、製紙、製鋼)、当時の人々の暮らしについて、鮮明に見えるようなよい文章で解説しています。

時代としては日中戦争のさなかであり、子ども向けの本ではありつつも、東アジアの各地を占領しつつあった日本の独自の論理(五族協和、興亜、西洋人に支配されない東洋人のための東洋を日本主導でつくる、など)が強調されている面はあります。が、一方で、今の日本にもほとんどそのまま通じる分析が登場するのも興味深い点です。とくに感心した文章を抜粋して紹介します。

こういう民族的に複雑な寄り合い所帯で成っている特殊な国情では、法規の厳然たることも大事に相違ないが、いたずらに煩雑な組織や日本流の融通の聞かない杓子定規主義は只うるさがられるだけだ。中央の基礎と機能とを鞏固にして、大本の対向方針さえ確かり定まってきれば、あとはなるべくその場その機に応じた経験と理解ある適材本位でいくのがいい (中略) 由来他民族と交わることに不慣れな日本人は、兎角その点で失敗してきたのだ。 (中略) せっかちで、一剋で、鼻っぱしの荒い、粘り気の足らない江戸っ児風の一本気だけでは、どうにもならない事情が世の中にはいくらでもある。 (中略) 要するに何事も上調子で騒がず、じっくり腰を落ちつけて物をよく熟視熟考し、銘々一人ひとりの実力でしんねり強く、着実に百年の大計のために仕事をする心がけと、根気が大事なのだ。 - (「蒙政部」という行政統治機構で日本人官吏と満人官吏が対等の地位で仕事をいている様子をみての、お父さんの説明)

中国東北地方を旅行しようと思っている人は、ぜひ事前に読んでみると旅行で得られる体験がもっと深まるかもしれません。

20150922 ESTECでの会議でオランダのライデンにいったときに読了

ハルビンのアイスフェスティバル

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大連のパノラマ写真

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